以前「アンチエイリアシングって？ 自分を騙そう！」というエントリで、アンチエイリアシングに関して解説しました。しかしアンチエイリアシングはわかりづらい技術ですので、今回のエントリではこのアンチエイリアシングをわかりやすくするために比喩を用いてみよう、という試みです。
このエントリのポイント
- アンチエイリアシングは、見る人の「目を騙す」もの。
- アンチエイリアシングは、「ファッション」や「化粧」のようなもの。
- アンチエイリアシングもファッションも、不要な人はしなくていい。
アンチエイリアシングってなに？
まず大前提として「アンチエイリアシング」とはなにかについて理解する必要があります。細かくは以前のエントリ「アンチエイリアシングって？ 自分を騙そう！」をご覧いただくとして、ざっくりと簡単に解説します。
見ている人の目を騙す方法のひとつ
アンチエイリアシング（Anti-aliasing、AA）は「ジャギー」もしくは「エイリアシング」と呼ばれる映像のギザギザを和らげる処理技術です。エイリアシング対策なので「アンチ」という言葉がついています。
ジャギーという現象は、そもそも映像の画質が低いことから発生します。見ている人からもジャギーが視認できると「画質が悪いんだな」と理解できてしまうので、極力避けたい現象です。
画質が悪く解像度の低い映像でジャギーが発生してしまう状況でも、アンチエイリアシングでわざと「ボカす」ようにすることで一見するとジャギーが発生していないかのように錯覚されるのです。
そのためアンチエイリアシングは一言でいうと、「閲覧者の目を騙す」ことだといえます。
高質なモニターなら必要ないことも
ジャギーは他に、無理に画像や映像を拡大したときにも視認できますが、その場合は拡大をやめて元の大きさに縮小すれば解決されます。
ジャギーは基本的に映像の解像度が低いことから発生するため、根本的な解決策は「解像度を上げる」ということになります。つまり高画質なモニターと、それに高画質な映像を出力できるグラフィックボードがあれば、解決できます。
容姿をよく見せるような手法
アンチエイリアシングは便利な機能ですが、必ず使用しなければいけないものではありません。ジャギーが発生しても気にしない人にとっては、アンチエイリアシングを使用する意義はあまりないのです。
しかし現在ではグラフィックボードの機能の向上が目覚ましいため、アンチエイリアシングは手軽に映像の見栄えをよくするシステムとして多く利用されています。
これはいわば「ファッション」や「化粧」のようなものです。すべての人が必要とするものではありませんが、世間一般では行ったほうがいいとされています。そしてその手法には様々あるため、どれがいいのか迷う人も現れてしまうのです。
AAは「目」を騙す
アンチエイリアシングは人の目を騙す技術です。種類によってどのようにしてピクセルの色を決定するかは異なりますが、すべてはジャギーを視認されないようにごまかしているのです。
見る人が不必要だと感じればオフにすることができますし、そもそも誰も見ない映像であれば完全に不要な手間です。
少し言い方は悪くなるかもしれませんが、ファッションや化粧も他人に「よく見てもらおう」という目的のもとに行われます。基本的にファッションは他人が見ないのであれば必要ありません。もちろん誰にも見られなくても好きなファッションを続ける人はいると考えられますが、そうした人々も「一生他人に見られない」という状況に陥ればどうするかはわかりません。
ただ基本的にアンチエイリアシングは、技術として公開されています。つまり「この技術はあなたの目を騙すものです」と認めており、隠しているわけではありません。
化粧やファッションだけでなく、たとえば「整形」などと譬えることもできますが、「私は整形しています」と公言しているようなものです。「騙す」といっても詐欺などのように利益を搾取するためのものではなく、見る人を喜ばせるための行為なのです。
容姿が元からよければ必要ない
世のなかには美醜という感覚があり、外見の整った人はあまり着飾らなくても見栄えがいいとされています。肌がずっとキレイであれば美容もあまり必要ありません。贅肉がなければ痩せる必要はありません。歯がキレイに生えそろっていれば歯医者に行く必要はありません。
これと同様の考えが、「そもそも映像が充分にキレイであれば、アンチエイリアシングは必要ない」という認識に繋がります。
人はそれぞれ生まれもった肉体で生活するしかありませんが、少なくともPCの場合はモニターやグラフィックボードを新しくすることで改善することができます。
他の種類のアンチエイリアシングは？
このように考えてみると、他の様々なアンチエイリアシングはどのように見なすことができるのか気になるものです。これは一般論であるというより、譬えを敷衍して広げているもので、「間違いなく正しい」ことを前提としたものではありません。
SSAAは「体の美化」
SSAAは「SuperSampling Anti-Aliasing」の略です。
このアンチエイリアシングは、1つのピクセルを複数のサブピクセルに分けて、そのサブピクセルごとの色の平均を取得するようになっています。アンチエイリアシングとしてはごく基礎的な技術ですが、サブピクセルを取得するのでやや負荷が大きいのも特徴です。
このSSAAを「ファッション」や「化粧」に譬えると、基本的な美肌や筋トレなどの「体の美化」に近いといえます。ファッションとして服装を変えるなどより、もっと基本的でありながら労力を必要とします。
美肌も筋トレも一朝一夕では達成できません。大きな労力を必要とします。そして継続的な労力と結果が必ずしも釣り合うとも限りません。
またSSAAは2x・4x・8xなどサブピクセルの数を指定できます。これは軽く筋トレをするか、しっかりと筋トレをするか、もしくはボディビルダーのように鍛えるのかを段階的に選べるものとも認識できます。
MSAAは「臭い対策」
MSAAは「MultiSampling Anti-Aliasing」の略で、SSAAの発展形です。このアンチエイリアシングは、SSAAのようにサブピクセルを利用しますが、利用するデータはサブピクセルの「奥行き」です。そのため3D映像に特化しているとされています。
これをファッションなどで譬えると、立体的・空間的な「臭い」に対策することに近いといえます。
単純に本人の体臭を管理するということでもあり、香水を利用することも含まれますし、アロマを利用し演出することも範疇内といえるでしょう。
FXAAは「服装のコーディネート」
FXAAは「Fast Approximate Anti-Aliasing」の略です。このアンチエイリアシングはサブピクセルを使用せず、周囲との輝度の違いを調べます。
これをファッションなどで譬えると、「服装のコーディネート」として外観を整える行為に近いといえます。
SSAAに比べると楽で、体型に合った服を選ぶことで達成できます。
TXAAは「所作の美化」
TXAAは「Temporal Anti-Aliasing」の略とされています。このアンチエイリアシングは、前の映像のフレームのデータを取得します。
これを「見る人を騙す」という点で譬えると、肉体や臭い、服装など時間で変化しないものではなく、「所作」のように時間的な動きを利用した行為に近いといえます。つまり他人に好ましく映る礼儀正しい所作や魅惑的な動きをするようなものです。
アンチエイリアシングは好み
アンチエイリアシングは、基本的に好みで選ぶだけで充分です。もちろん使用しているグラフィックボードの能力に依存しますが、高性能なグラフィックボードを使用しているならアンチエイリアシングを利用しなければならない、というものでもありません。アンチエイリアシングは映像の美化に一役買いますが、選ぶ人が不要だと感じれば使用しなくてもいいのです。
これはファッションや化粧についても同様です。基本的には本人の好みで行われる（べき）ものであり、周囲が強制するものではありません。
ゲームの設定でSSAAやFXAAのような見慣れないオプションがあったとして、それを利用したほうが見栄えがいいというなら使用し、場合によってはより高性能なグラフィックボードに換装することも考慮してみるのもいいでしょうし、あまり気にならないのなら使用しなくてもいいものなのです。
そしてアンチエイリアシングは、映像の美化を達成するために、グラフィックボードに相応の能力を求めます。美肌や筋トレは「ただすればよくなる」だけではなく、時間を費やしますし、労力が必要になります。
ユーザーは自由に「能力（労力）を割いて美化に努める」か「能力（労力）を割きたくないから美化を諦める」のどちらかをまず選ぶことができます。美化を選んだ場合は、さらに（使用しているグラフィックボードの性能の範囲内で）どの種類のアンチエイリアシングを適用するか選ぶことになります。
今回は「見栄えをよくする行為」に譬えましたが、「筋トレ」「臭い対策」「服装」「所作」などに対して、読者の方々が「どれを好きか」という主体的な選択ではなく、「そういうふうに対策している人がいるならどれをしてもらいたいか」という客体的な視点の選択がアンチエイリアシングです。
また読者の方々のファッションの好みに合致するように比喩したものでもなく、「筋トレが好きならSSAAを選ぼう」という類のものではありませんので、ご理解ください。
まとめ
- アンチエイリアシングは、使用する人が自分の目を錯覚させるために使う。
- 元からキレイならば、アンチエイリアシングもファッションもあまり必要ない。
- アンチエイリアシングは種類によって、肉体美化・臭い対策・服装・所作などに譬えられる。
さいごに
ゲームの映像を美化する技術には、アンチエイリアシングだけでなく垂直同期などもありますが、映像のティアリング（映像が裂けて見にくくなる現象）とは違い、ジャギーは気にならない人もいることでしょう。特にアンチエイリアシングは略称が多く、MSAAやTXAAなど文字列を見ただけで意味を察知することが難しい設定です。
今回は感覚的にわかりやすいようにアンチエイリアシングをファッションや化粧などの外貌をよく見せる行為に譬えました。
2xや4xなど段階的に設定できるものや、負荷の大きいものや小さいものなどありますが、映像を少しでもキレイにしたいなら、可能な範囲で利用できるだけでも構わないでしょう。
