こんにちは、Caffeineです。
今朝、実写映画「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」の映像が公開されたというニュースを見ました!
衝撃的でしたね……。
<映画「 ソニック・ザ・ヘッジホッグ」の映像初公開。変わらぬムキムキっぷりを見せるソニックに対する反響は続く | AUTOMATON>
この映像、見た人の多くが「ナニコレ……」と感じたのではないでしょうか。私はいいようもない感情に囚われました。希望とも失望ともつかない、賞賛とも拒絶ともつかない不思議な気持ちに……。
私は「実写化」という行為には疑問を感じているタイプの人間です。実写化は「現実世界にないものをAR(拡張現実)技術のように現実世界へ投影してみせる」ことを指します。つまり単に2Dのものを3Dにするのとは異なります。
上の動画はA-haというバンドの「Take on me」という曲で、80年代半ばに世界的に大ヒットしました。非常に有名な曲ですので、若い方でも耳にしたことがあるのではないでしょうか。キャッチーなサビや男声としては非常に高音であるパートがとても印象的です。
空耳では
「パンツ1000円」で
有名な曲だな。
その情報は
要りませんね。
うん、
知りたくなかったし
すぐ忘れたいね。
この曲のPVでは、A-haのメンバーが紙に描かれた状態で登場し、現実世界の女性がその世界のなかに飛び込む、という様子を映像にされています(動画は、所属事務所による公式動画のようです)。
2Dを3Dにするというのは、とても単純にいえばこうした映像も含むでしょう。逆にいえば、この表現においては3Dのものを2Dにすることも大した差はありません。そのためこのPVのように、もともと3Dである「人間」を2Dという絵として表現した上で、さらに2Dから3Dへ抜け出してくるという表現をすることも違和感はありません。
この点を考慮すると、もともと現実世界にないものを3Dに落とし込む実写化というのは、やはり難しいのでしょう。今回のソニックの映像を見ると考えてしまいます。
あえて明言しておくと、私はソニックシリーズをまったくプレイしたことはありません。アクションゲームとして日本でも海外でも人気があるシリーズだというのは認識していますが、実際に操作したことはありません。あとはテイルスやナックルズという味方、エッグマンという敵役がいることを知っているくらいです。
俗に「exe系」と呼ばれるような、二次創作のホラー作品などが作成されるくらいには人気があるものだと、認識しています。
トレイラーを見たところ、ジム・キャリー演じるエッグマンがハリウッドらしい演技を見せています。
軍の少佐を相手に、
少佐:Listen, pal. I don’t know if you realize…
(いいか、貴様。お前がいったい……)
エッグマン:I’m sorry, Major, what is your name?
(すまない少佐、お名前は?)
少佐:Benn…
(ベニ……)
エッグマン:Nobody cares!
(知らんがな!)
と茶化している様が描かれていますので、ハリウッドらしい小気味のいいテンポは健在なのでしょう。正直なところ、ジム・キャリーがどのようにエッグマンを演じるのかは興味があるところです。
しかしゲーマーとしては、昔からあるゲームシリーズのキャラクタがこのように実写化されるというのは、いくらかの忌避感があるもののやはり興味を強くひかれるものです。いったいこのよくわからない気持ちはなんなんだろう、といろいろ考えてみましたが、個人的にこれは「よくわからない新作カレー」なのだろうという思いに至りました。
ハリウッド映画というのは、良くも悪くも「化学調味料たっぷりの人気レストラン」といったところです。化学調味が嫌いな人はとことん嫌いですし、気にしない人は気にしません。今回のソニック・ザ・ヘッジホッグ実写映画は、その化調たっぷりレストランが発表した新作カレーです。
しかしただの新作カレーではありません。子供が大好きな、もしくは大人になってもみんなが大好きな「駄菓子」をカレーの素材としてあるのです。それも隠し味ではありません。メイン素材です。
今回はソニックという速さに爽快感がある素材ですので、「粉末炭酸ジュース」といったところでしょうか。粉のまま口に入れると唾液でシュワシュワとする駄菓子です。その粉末炭酸ジュースでカレーを作ったのです。
そのカレーの発表映像では、カレーが炭酸ジュースのケミカルな色に整えられ、シュワシュワと音を立ててあぶくを立てています。世界中の人々は騒然としています。食べたい、食べたくない、あれはなんだ、もはや食べ物じゃない、食への冒涜だ、いろいろな言葉が投げかけられます。
食べた人はいうかもしれません、「このレストランのカレーだからそこそこ旨いよ。料理は見た目じゃない」と。そうです、私たちはハリウッド映画の旨味を充分に知っています。レビューのために誰より先に食べる人々は、その旨味の由来を知っています。そして中毒性も知っています。すでに化調の旨味に慣れ切った人々がいることを知っています。しかし彼らが食べるのは宣伝のためですから、私たちが食べたくなるように褒め、もしくは批評するでしょう。
おそらく先入観なしに食べてみれば、ある程度は美味しいのでしょう。しかしその見た目のインパクトはやはり凄まじいものです。
トレイラーの冒頭、タイトルが現れるカットでは、ゲーム内のSEが使われているようです。トレイラーを見返すうちに、私は「そこじゃないだろう」と感じるようになりました。
これはカレーでいう福神漬けやらっきょう漬けのような添え物に近いかもしれません。「このレストランの炭酸カレーは、福神漬け・らっきょうにもこだわっています!」というメッセージです。私たちはそこで思います、「いや、そこじゃないだろう」と。
そしてトレイラーの終盤では、BGMにStevie WonderのPastime Paradise(邦題:楽園の彼方へ)が流れます(こちらも公式チャンネルの動画のようです)。Pastimeは「past time(過ぎた時)」ではなくフランス語「passe-temps」から来た「娯楽・気晴らし(≒hobby)」という意味のようです。
私は高校生の頃だったかStevie Wonderのベストアルバムを買ったことがあるので、たまたまこの曲を知っていました。トレイラーでこれを最初に聞いた瞬間は、笑ってしまいました。
これはいわば、飲み物にラッシーを用意するようなものです。ヨーグルトをベースにしたドリンクで、インド料理では一緒に供されることがあるものです。TVでもこだわったカレーでは一緒に登場することがある白いドリンクです。
ここでも私たちはまた思わされます、「だからそこでもないだろう」と。
しかもこのPastime Paradiseの歌詞は、気晴らしや過去に生きることを批判するような歌詞です。これを選曲した人は、またOKを出した人はどんな気持ちで通したのでしょうか。この歌詞になぞらえて、制作陣や視聴者に対して批判をなげかけたいのか、それとも単に好きだったのか……。
いずれにせよ、どんな添え物・飲み物が足されようと、このカレーは奇異なのです。料理の存在にすら疑いを感じてしまうほどに……
そうはいっても、もはやこのように「そこじゃないだろ」と考えてしまうのなら、論点が違うのかもしれません。ゲームやアニメの実写化というのは、お菓子を素材にして料理をしようというようなものです。特に子供向けなら、駄菓子を素材にして、という具合に。
この潮流に対して、「いや、そういうの要らないから」というのも、なんだかズレてしまっているのです。そのレストランは発表したければ発表したいものを発表するのです。それに対して「するな」というのは、論点がズレてしまっているのかもしれません。もちろん違うと言い続けるのも表現のひとつでしょう。
この点で考えるとするなら、「誰がその料理を求めているのか」ということでしょう。そう考えてみると、少なくとも私は彼らの考慮するターゲットの内側にいません。いたいとも思わないので構いませんが。
しかしそうした料理が登場する潮流自体を、奇異に感じることもあります。「なぜこうした料理が登場するのか?」「これは売れるのか?」「売れなくてもいいのか?」「これが登場するような社会は健全なのか?」といった疑問が湧きます。
感覚としては、コンビニで奇妙な新商品を見かけた瞬間と似ているかもしれません。発想はおもしろいし買う人はいるのかもしれないけど、自分では絶対買わない、そんな新商品のような……
しかしやはり本当に重要なのは、私のようなソニックの門外漢がどう感じるかより、ソニックを長らく好きでい続けてきた人がどう感じるか、なのでしょう。それは制作者の方々もそうですし、ファンの方々もそうです。
しかもこうした潮流を歓迎するムードはあまり感じないのに、つまり需要があるようには大して思えないのに、供給がされ続けるというのはやはり難しく感じてしまいますね。