Q.「Schizophrenia Simulation」のオススメとイマイチは? A.興味深い作品だけど扱いが難しい

ゲーム紹介

こんにちは、Caffeineです。
今回ご紹介するのは「Schizophrenia Simulation」です!

どんなところがオススメ?
ふつうの悪いところが本作の「いい」ところ

前回のエントリ(基本情報):
なになに、「Schizophrenia Simulation」? えっ、統合失調症シミュレーション?
こんにちは、Caffeineです。 今回ご紹介するのは無料でプレイできるシミュレーター「Schizophrenia Simulation」です! ※この記事に統合失調症を揶揄する意図はございません。 タイトル ...

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この「Schizophrenia Simulation」について、少し踏み込んだ情報を考えていきましょう。

プレイ感

まずは実際に私がプレイして感じたことを述べていきます。

「気分が悪くなる」という良さ

「Schizophrenia Simulation」をプレイして最初に感じることで、プレイを終えるまで続き、本作の最大の特徴ともいえる要素が、「視界の歪み」です。ホラー演出もある本作ですが、それはあくまで脇役であり、他の作品と大きく異なる点は「視界の歪み」に他なりません。

もちろん統合失調症シミュレーションとして、幻聴の演出や悪夢の演出も行われますが、それは「作品の展開」として行われているもので、作品を一言で表すとするならそうした要素に濃い妙味が表れているわけではないので、強く推される点ではありません。

私もそうでしたが、おそらく多くの人がこの視界の歪みには「不快感」に似たものを感じることでしょう。それはもちろん「私たちが普段見ている情景」と大きくことなるからです。厳密にいうと、「私たちが普段見ている(PC内の)映像」だといえるでしょう。

本作の妙味は、これが「統合失調症を追体験する」というコンセプトと見事に合致しているのです。このコンセプトのもとでは、快適な映像を楽しめるほうが間違いなのです。そのため一般的には好まれない「気分が悪くなる」ような「気持ちが落ち着かなくなる」ような演出こそがいいものとなっているのです。

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図部野 素人

俺の最初の印象は
「ヤバくなったら吐くかもしんない」
だったな。

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初 心

わたしは
「気分悪くなったら横になろう」
だったなあ。

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Caffeine

人によって程度は異なりますが、
気分が優れない場合は無理をせずに
中断するようにしましょうね。

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図部野 素人

さんせー。

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初 心

さんせー。

FOV

「Schizophrenia Simulation」における視界の歪みは、FOVの設定によるものに似ています。FOVは「Field of View」の略で視野を意味します(充分に歳をとっていると、「突然」や「DAN DAN 心魅かれてく」を思い出します)。


Minecraftで撮影した異なるFOVのスクリーンショット。アングルは同じ(画像をクリックすると拡大)。

これは多くのゲームで変更できる設定であり、大きくすることで広い範囲を見ることができるようになります。もちろんその分「引いた」形でカメラからの映像を見ることになるため、広い分だけ小さく表示されてしまいます。

それだけでなく広い(高い)FOVで操作すると、視野の端の映像が「伸びる」ような歪みが発生する傾向があります。
狭い(低い)FOVで操作するとこの歪みが少なく、「カメラでズームアップしている」ような映像、もしくは「双眼鏡を覗いている」ような感覚でプレイすることになります。それに対して広い(高い)FOVでは歪みが大きく、「魚眼レンズを覗いている」ような感覚になります。
FOVは「高いほうがいい」「小さいほうがいい」という数値ではなく、主観的な好みとモニタやゲームの解像度で調整していくような数値です。

「Schizophrenia Simulation」の映像の歪みは、まさにこのFOVが高いときの視野の歪みと似ています。もちろんそれだけでなく、遠近感がうまくつかめなくなる印象もあるため、FOVだけではないのかもしれません。

一般的にこうした歪みは少ないほうがよく、人々は「快適にプレイできるよう」に技術を発達させます。本作のおもしろいところは、それを逆手にとって「歪みがある映像」を演出としてとりこんで作品にしているところです。見事な着眼点です。

ルイス・ウェインの猫の絵

しかしもちろん気をつけないといけない点はあります。それはタイトル画面に表示されている「猫の絵」です。


見たことがあるであろう人も少なくない絵。

これはインターネットでは有名な画像ですが、「ルイス・ウェイン」というイギリスの画家が描いた絵です。彼は統合失調症に罹患していて、症状が進行するにつれて次第に彼の描く猫の絵が崩れていくさまが人々の興味を強く引き、強く知られることとなりました。

しかしこのルイス・ウェインの猫の画像はどういった順序で描かれたかはっきりしておらず、「症状が進行するにつれて」という部分があやふやなのです。こういった点は興味本位や悪意によって事実が歪められてしまうことがあり、それによって流言飛語が広まってしまうことにもなりかねないので、気をつけないといけません。

たとえば「あたしはもうお嫁にはいけません(刺激の強い画像ですのでご注意ください)」という絵画が呪いの画像として広められたことが、別の例として挙げられます。実のところこの絵画は「立島夕子」という画家の方の作品です。こうした噂は興味本位と無責任さの表れですので、しっかりと注意しておかないといけません。

「Schizophrenia Simulation」は興味深いテーマ・コンセプトの作品ですが、だからこそ気をつけないといけません。統合失調症に対する事実の認識が、この作品をプレイすることで歪んでしまえば、この作品の価値はむしろマイナスになってしまうからです。

「ここがオススメ!」

ではプレイ感はこのくらいにしておいて、この「Schizophrenia Simulation」のオススメな点を確認していきましょう。

感覚的な「おかしさ」を体験できる

「Schizophrenia Simulation」の興味深いところは、統合失調症を再現したさまざまな演出を体験することができるところです。主人公の感じる不安や焦り、そして幻視や幻聴を追体験することができますが、そのなかでもやはり特徴的なのは「視覚の歪み」です。

これは映像で確認するだけでも妙な感覚を体験することができますが、できるなら実際に体験してみるほうがいいでしょう。本作は無料でダウンロードしてプレイできる作品ですので、この「気持ち悪さ」を実際に感じてみてほしいところです。もちろん苦手な方に勧めるわけではありません。しかし少しでも興味があるなら体験してみても損はないのではないでしょうか。

「Schizophrenia Simulation」にはいろいろな要素がありますが、一点訴求をするならこの「視点の歪み」だけでプレイする価値があると思われます。

Schizophrenia Simulation by ChoppyPine
Horror, simulation

「ここはイマイチ……」

逆にイマイチなところはどんなところでしょうか?
実は興味深い作品ですが、ある程度は慎重に扱わないといけないと考えられます。

追体験は実体験に追いつかない

本作の説明文には、以下の文言があります。

Of course, comparing to the real schizophrenia all simulations are poor representation.

もちろん、実際の統合失調症と比べるとすべてのシミュレーションは不充分な表現に過ぎません。

ここにすでに集約されていることですが、「シミュレーション」はあくまでシミュレーションにすぎません。決して本物にはなりえません。シミュレーションとはどこまで精密で本物に近づけようとしても、決して本物になることはできません。

そのため究極的には、本作をプレイしたところで統合失調症を理解することはできません。「『理解した』と錯覚する」ことはできても、理解することはできません。
真に理解するには、実際に統合失調症に罹患するしかありません。

これは統合失調症に限らず、またシミュレーションに限らず、根本的に私たちは自分のことしかわからないということです。家族や恋人など、どんなに近しい人のことでも、理解することはできません。それも「『理解している』と錯覚する」ことができるだけです。

ここで注意しておきたいのは、「理解することを放棄するべきだ」といいたいわけではないことです。もちろん他の方の認識の誤りを指摘して、自分の優位を示したいなどという愚かなことをしたいわけでもありません。
ただ構造的に私たちは他の人になることができないので、「おそらくこういうことだろう」と蓋然的に「だいたい」で判断するしかないのです。

だから本作がいかに興味深く、プレイ後に「なるほど」と感じられるような素晴らしい作品にしあがっていても、本作をプレイして「統合失調症ってこんな感じなんだ」と確信するのは、誤りです。「統合失調症ってこんな感じなのかもしれないな」というふうに余地を残しておく必要があります。そうでないと実際の統合失調症の人に迷惑をかけてしまうかもしれません。

ゲームとしての妙味を評価できない

また説明文には、以下の文言も記されています。

This is not a horror game. No… It is accurate simulation of schizophrenia based on empirical data gathered by psychologist and psychiatrists.

これはホラーゲームではありません。そうです……これは心理学者と精神科医によって集められた経験上のデータに依拠した正確な統合失調症のシミュレーションなのです。

繰り返し述べているように、本作はゲームではありません。少なくともゲームではないと作者の方は述べています。
そのため私たちは本作をいかにゲームのようにプレイしようと、ゲームとして評価することはできません。しても構わないのですが、その評価に意味はありませんし、価値もありません。

本サイトではこの作品を「ゲーム」と呼ばずに「作品」と呼ぶようにしていますが、それだけでなく「ゲームとして評価する」ことも誤りであり、場合によっては「不謹慎」とされることになる可能性があります。

これは私のように紹介記事を書く者だけでなく、プレイする様子を動画や配信として流す方にとっても気をつけねばならないところです。それだけでなくプレイした感想をTwitterなどで語るときにも、同様の緊張をもっておくほうがいいでしょう。それは今「誰もが発信者」という時代であり、不適当な発言は誰かを傷つけることになる可能性があるからです。

ゲームとして開発されてはいないのか?

本作を評価するとき、私たちが慎重に言葉を選ぶなどしないといけないのが「プレイヤー」側の一種の責任だとすれば、「制作者」側の責任として語ることができる部分もあります。
それは「本当にこの作品はゲームとして開発されてはいないのか?」という点です。

制作者の方をなじる目的は私に微塵もありませんので、この点については具体的な本作の特徴をあげつらうより、「実際の疾病をとりあつかったシミュレーション」全体に関する抽象的な注意点を挙げるに留めておきましょう。

どうあがいても未完成

まず挙げられるのは、上述した「シミュレーションは本物になりえない」という点です。
実際の疾病の症状にどれだけ近づけようとしても、完全に本物になることはありえません。
そのため「健常者にその疾病を追体験させる」という意味のあるコンセプトだったとしても、100%の達成は絶対にありえません。

演出への配慮

次に私たち鑑賞者が評価をする際に言葉など表現を選ばないといけないように、制作者は演出に配慮しなければいけません。愚劣であれば、その疾病自体や疾病の患者の方々を嘲笑うような表現をとったり、中傷するような演出をしたりするかもしれません。そうなれば非難を免れることができません。そこまで程度が低くないにしても、コンセプトに忠実になって、たとえ本物にはなりえないとしても、なるべく本物に近づける努力をする必要があるでしょう。

「遊び心」のバランス

これは程度の問題なのですが、「エンターテインメント」と「アート」のバランスをどうするかというのも、重要な点です。ここでの「アート」とは、エンターテインメントと対義的な「できるだけ遊び心を排除して、コンセプトである『症状の追体験』のみを追究する」というような考え方だと捉えてください。つまり私がここで挙げている「バランス」というのは、「ゲームに近づけるか、シミュレーションに近づけるか」というものです。

ゲームに近づけるというのは、ここではエンターテインメント要素を盛り込んでプレイヤーが楽しめる作品にすることです。もちろんコンセプトである「症状の追体験」の要素は薄れて、興味本位で茶化すことになりかねません。
シミュレーションに近づけるとは、ここではエンターテインメント要素・遊び心を排除して、アート要素を重視しコンセプトだけを理念とする、ということです。

ゲームに特化させてコンセプトを軽視するなら、ただの茶化す下劣な作品になりさがります。アートに特化させて遊び心を完全に排除するなら、プレイヤーが「興味深い」と感じることもタブーとなりかねません(それは楽しむことに近いからです)。もちろんこれは極論です。
だから「程度の問題」なのです。極端のどちらかを選ぶ他ないという「0か1か」の話でなく、0.4でも0.68でもいいのです。

慎重に

ただ作品として発表する以上は、「プレイされる」ということがひとつの目的となります。
どれだけ高尚で有意義な作品があっても、起動されないソフトに価値はありません。とはいえダウンロード数を上げるためにコンセプトを捨てて遊び心だけに走るのは、本末転倒です。
そのため「実際の疾病をとりあつかったシミュレーション」というものは、できるだけ慎重にエンターテインメントとアートのバランスを考えて製作しないといけないのです。

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図部野 素人

難しいことはわからんが、
変なこというと「不謹慎」になるのは
わかる気がする。

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初 心

検閲とか忖度でもないんだけど、
誰かが傷つくようになるのは
よくないもんね。

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Caffeine

珍しく着地点がまともですが、
実際に私もそう思います。
ゲームで誰かが傷つくのは
ゲーマーの本懐ではありませんからね。

次のエントリ

次回のエントリでは、ゲームというもの全体を含めた本作のロール(役割)や、ネタバレありでエンディングの分岐の条件などについてまとめていきます。

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